人生洋梨

哀しみのルート20

名越その一 BIG MUFF

 名越由貴夫と言えばビッグマフ、ビッグマフといえば名越由貴夫。世界レベルではDinosaur Jr.のJ・マスシスが一番有名かもしれないが。electro harmonixのBIG MUFF πといえばギターを弾く人なら誰でも知っているであろう最強のファズペダルである。名越のみならず、90年代日本のハードコアシーンではbloodthirsty butchers吉村秀樹(コーパスグラインダーズでは3人のギタリストが各々異なる時期のビッグマフを使用していたとか)やCOWPERSの竹林現動などがこぞって愛用し、そのサウンドメイクにおいて欠かせない要素になっていた。

 ライター顔でかっこいい前書きを書いた気になっているが本題に移りましょう。名越さんがメインで愛用しているのはオタクの間では"3rd"とか"V3(VはversionのV)"とか呼ばれているもの。見た目的にはその辺の中古屋で激安で売ってる現行ものとソックリなやつですね。まあ現行が3rdのデザインをリイシューしたんですが。ビッグマフって製造時期によって外観も違えば音も違うんですよ。著作権がアレだから画像は載せないけど、一応大まかにまとめておくと以下のようになる。

  1st:トライアングル

  2nd:Ram's Head(ラムズヘッド)

  3rd:3rd(←そのまんまかよ)

  4th:シビルウォー

  5th:アーミーグリーン

  6th:黒ロシアン

  7th:現行

 ギター弾く人はどれも一度は聞いたことのあるような通称だと思います。この際各々の違いはどうでもよくて、実はこいつら最初のトライアングルから現行まで回路はほとんど同じなんですよ。数個のコンデンサーとか抵抗の定数、あとトランジスタの種類(トランジスタには定格があって、定格の範囲内に収まれば縁もゆかりもない西宮市みたいなやつも流用できるくらいの汎用性がある)が違うだけ。逆に数個のパーツの違いで時期ごとのサウンドキャラクターの違いが生じるわけですね。さらに同じ時期のものでも個体差が大きいそう。

 なんだかんだで3rdのビッグマフを買えば同じ音出せるんじゃね、という気がするがそうは問屋がおろし金。前書きにも書いたが、名越さんの個体は確かに3rdだけど中のパーツはほとんどご自身の手によって取り替えられてるんですよ。おまけに「6種類のレンジを選択できるようにスイッチを追加」「配線材は極太のシルク被覆で自作」とか、もう訳がわからん。雑誌に出血大サービスで中身の写真も掲載されていますが、変更されたパーツの定数までは載っておらず。完全に同じ物を作って同じ音を出すのは不可能なんですね。

 ちなみに、さらに3rdの中でも大きく分けて3種類あって、まず2ndのラムズヘッドと全く同じ基板(EH3003)のやつ、次にトランジスタでなくオペアンプ(IC)を使用したもの、そして名越さんの改造元になったEH3034という従来のものより小型の基板が採用された、通称"V6"と呼ばれるものが存在します。このV6、ヴィンテージのビッグマフの中でもかなり地味な存在で、リイシューがほとんど出てないんですよね。3rdのラムズ基板のはラムズに含めるとして、オペアンプのも含めて最近はどの時期のビッグマフでも本家エレハモ含め各メーカーからリイシューやクローンが出てるのに...。唯一Big Knob PedalsというメーカーがNYC'81という名前でドンズバのV6クローンを出してて気になるけど、日本国内で流通がなくebayでしか売ってない。クローンはおろかヴィンテージのV6を買ってもドンズバの名越サウンドは出ないんだからビミョーな気がする。

 じゃあどうすりゃええんや!V6をベースに自作してパーツの定数をコロコロ変えて気長に探っていくのも面白そうだけど面倒くさい。ここは楽をしましょう。結論としては、妥協してラムズのリイシューを買うのが一番気軽にそれっぽいサウンドを出せそうな気がしています。

 なんでいきなりラムズなの?って話ですが、名越さんがビッグマフ含め歪みエフェクターをモディファイする理由って大体「レンジを広くするため」なんですよね。そして、歴代ビッグマフの中でそのレンジの広さで最も人気があると言っていいのが2ndのラムズなんです。名越さん本人もラムズを所有していて(おそらくこれも改造されているが)、現場の足元にもメインの3rd改と同じくらいの頻度で登場していることからかなり気に入っている模様。ラムズといえば吉村秀樹の代名詞でブッチャーズのkocoronoのジャケにでっかく載ってるアレですね。

 メインの3rd改の素性が不明な以上、上記のような言葉や状況から推察して、ラムズが一番イメージ的に近い音が出そうな気がしています。ヴィンテージのラムズは高嶺の花だけど、最近になって本家が出してくれたリイシューは常識的な値段で買えます。しかも取り回しの良いMXRサイズ。ビッグマフはデカい筐体じゃないとダメだって意見もありますけどね。

 ちなみに筆者は黒ロシアンとハ◯ドオフで入手した誰かが自作した意味不明なクローンの二つを使ってます。zoomのマルチストンプのGREAT MUFFなんかも良いと思いますよ。現行も良いんじゃないかな(結局なんでもいいのかよ)。ビッグマフって基本の回路は同じでもキャラクターの違いで何台も揃えたくなる気持ちわかりますね。名越さんも8台くらいは持っているけどまだまだ欲しいそう。

 名越さんの3rd改の音は数多くの音源やライブ映像で視聴できますが、椎名林檎推しの筆者は"虚言症"のバッキングが一番好きですね。ポップスのバッキングでビッグマフ踏みっぱなしってあり得ます?実は、椎名さんの2nd"勝訴ストリップ"の中でも"本能"と"虚言症"だけ名越さんが弾いていて特別感がある。東京事変がひと段落してできた"三文ゴシップ"から近年までの椎名さんのソロ作品でも名越ギターの聴きどころがたくさんあります。"虚言症"のバッキングは音源も良いんだけど、2015年のライブ"百鬼夜行"のバージョンはアンコールの最後の曲という雰囲気もあってか激ヤバですね。DVD持ってる人じゃないと観れないのが惜しい。

 ひっちゃかめっちゃかな記事になってしまいましたが、こんな感じで次回以降も進めていきたいと思います。次回は意外と知られていない名越さんのメイン歪みに切り込んでいきます。しくよろ。