人生洋梨

哀しみのルート20

Fenderの12弦ギターとカポタストの話

 どうも河合です。皆様いかがお過ごしだろうか。筆者はと言えば、友達のシンゾウ君が今度10万円あげるよみたいなことを言ってたので、善は急げと前から狙ってたビンテージFenderのアコギを買ってしまったのである。

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誰もが一度は憧れる(大嘘)12弦ホッケースティックヘッド

 どう?イカすでしょ。とりあえず持ってるギターがエレキばっかりでアコギを1本持っておきたかったので、普通の6弦でも良かったんだけど、なんか弦12本もあると豪華だし最悪複弦を外せば6弦としても使えるしお得じゃね?ってことで12弦を選択。ビンテージFenderのアコギの場合、6弦だろうが12弦だろうが相場はそんなに変わらないみたい。これは66年製だけど、同じ年代のストラトだと余裕でウン百万するのが10万そこらで買えるんだから個人的にはメチャクチャお得だと思う(全然違うけども)。現行のFenderでもちょうど10万しないくらいで同じようなアコギを売ってるけど、中国製だし後述するが筆者には"第一志望は、ゆずれない"並のこだわりポイントがあって駿台予備校状態なのでビンテージを買うしかなかったのである。ラッカー塗装のボロい風合いが好きとか、そもそも使ってる木材の品質が良いってのもあるけど。余談だがペグはクソのFキーなので本当はクルーソンの個体が良かったけど仕方ない。

 アコギと言えばマーチソとかギブソソが有名だし、アコギ自体にFenderのイメージは全然ないのだが、筆者はエレキはFenderしか使わないので(すまんGibson。だって好きなギタリストがFender使いばっかなんだもん)、アコギも最も"Fenderらしい"やつが欲しかったのである。現行のFenderアコギも6弦なら6連のヘッドストック、12弦ならホッケーヘッドストックなのは好印象だが、中国製でそもそも価格帯も低いのがエントリーユース向けな感じがするし(ろくに弾けやしないんだから身の丈に合ってはいるが)、一番許せないのはネックジョイントがボルトオンじゃない点。

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泣く子も黙るボルトオンアコギ

 そう、ネックジョイントがボルトオンなのはビンテージだけなのである。まともなアコギを使う人からしたらバカじゃねえのって感じの仕様だが、何ともFenderらしいではないか。画像を見て想像できるように、このネックはクソ長いネジによってエレキと同じようにボディと結合されている。ボディ自体は15 3/8インチのドレッドノートでよくある感じ。これは"Shenandoah"というモデル名(アメリカの地名が由来)だが、6弦の"Kingman"とボディは共通であり、Kingmanの12弦版として発売されたらしい。ネックはどうせ同時期に発売された12弦エレキの”Electric XII”の使い回しだろうと思ったが、よく見るとヒール部分がアコギのボディシェイプに合わせて2フレット分ほどヘッド側に移動しており、専用品であることがわかる。ちなみに、ビンテージFenderアコギは基本的にネックエンド部がサウンドホールの形に合わせてエレキとは逆のRにカットされているが、本個体のようにストラトなどと同じネックエンドを持つ個体もたまに見られる。ゆえにネックはストラトのボディに流用して12弦エレキもどきを作ろう...なんて考えてしまった筆者であるが(ビンテージのElectric XIIは高いからね)、先述したヒール部分の位置の違いからなんとも不格好になってしまいそうである。あとジョイントの位置も違うので、流用する場合はネック側に穴を開け直す必要があるが、ビンテージに余分な穴を開けるのはもったいないのでやりたくない。

 ヒール部分の位置の違いを除けば、Electric XII、つまり12弦エレキのネックと全く同じと考えて良いだろう。12弦ギターは弦が多い分、設計上6弦のネックよりもナット幅が広くなりがちだが、他の12弦ギターと比較してナット幅が狭く、6弦のエレキから持ち替えても違和感が小さいという評判である。Fender製ギター・ベースのネックのナット幅にはA〜Dの4種類あり(Dは存在自体怪しいが)、本個体に限らず12弦ギターはナット幅約44.5mmのCネックである。Cネックはプレシジョンベースで採用されているのが有名である。ちなみにストラト等通常の6弦ギターはナット幅約41mmのBネックである。実際に弾いた感触としては、言われてみれば6弦エレキと比べれば若干幅広な感じもするが、個人的に慣れ親しんだ184RのRのきつい指板だし、プレシジョンベースの幅広ネックにも慣れているのでちっとも違和感は無い。複弦を外して6弦ギターとして使っても全然問題無さそうである。

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最悪ホッケースティックとしても使えそうだ

 せっかく12弦なのでしばらくは12弦として使いたいのだが、12弦特有の問題もある。なにせ弦の本数が2倍なので、張力がハンパじゃないのだ。本個体に関してはネックよりもボディ側の負担が大きいようで、ネックは50年以上前の製品であるにもかかわらずストレートでトラスロッドの余裕もありそうだが、ボディはチューニングを上げるにしたがってトップのブリッジの後ろの部分が少しずつ浮いてくる。構造上多少の浮きは仕方ないのだろうが、この尋常でない張力に負けてなのか、トップには割れを修理した形跡もある。長期の使用を見据えれば、レギュラーチューニングまで上げて使うよりも、せいぜい1音下げで2カポぐらいで使った方が心臓に優しい気がする。

 2カポで使うのは良いんだが、ここで問題発生。当然と言っちゃ当然なんだが、普通の6弦用のカポが使えないのである。2カポならまだしも、「12弦買ったし、7カポ(1音下げでBmなら9カポだが)でとりあえずHotel Califolniaのイントロでも弾くか」なんて夢のまた夢だったわけである。問題は2つある。第一に幅の問題。6弦用のカポは弦を押さえるゴムの部分の長さが大体約50mm前後で作られてるらしい。実物は持っていないが、有名どころだとKyserのKG6は約48mm、SHUBBのC1は約50mmだそう。筆者が使っているオレンジ色のKyserもどきとダダリオのNSカポは共に約53mmで少し長めだった。これに対し、今回買った12弦アコギでは、(レギュラーor1音下げで原キーでHotel Califolniaを弾くことを前提として)7フレットの幅が約52mm、9フレットでは約53.5mmであった。どうりで6弦と1弦がゴムの長さ不足でちゃんと押さえられないわけである。そもそも7カポとか9カポってキチガイじみているが、6弦エレキでは7フレットで約48mm、9フレットで約49.5mmであり、筆者所有のカポでは普通に押さえられた。KyserやSHUBBだと6弦でも7カポ9カポは厳しいのかもしれない。

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カポがいっぱいホテルカポフォルニア

 じゃあ12弦用のカポを買えばええやんということでG7thの12弦用Newportカポ(写真の銀色のやつ)ってのを買ったんだが、これが完全に勇み足だった。これは太い弦と細い弦が交互に並ぶ12本を均等に押さえられるようにゴムに溝が掘ってあるスグレモノなんだけど、低音弦側の溝が弦をしっかり押さえようと入り込むのが裏目に出てか、高音弦側が浮いてしまって弦を押さえられず、全く使い物にならない。まだ6弦用の普通のカポの方が端の弦を犠牲にすれば使えたのでマシだった。ここでこのG7thのカポがギター側の指板Rと全く合っていないことに気付く。第二の問題、指板Rの問題である。FenderのRがキツい指板に対してカポのゴム部分がフラットすぎるのである。この製品は決して悪くない。一般的な12弦アコギに使えば真価を発揮できるであろう。 

 カポの世界も奥が深いものである。7年ぐらいギターをやっているが、カポと指板Rの関係なんて考えたこともなかった。そもそも今まで使っていた2つのカポも、Fenderの指板Rにピッタリというわけではないことがわかった。カポなんて汎用品だから、大体のギターで普通に使うポジションが押さえられるものが良いとされるのだろう。改めて6弦のFenderエレキを7カポ9カポで弾いてみると、まあ使えなくはないが端の6弦1弦の押さえが甘く軽くビビっている気がしてならない。

 カポの御三家と言われるKyser、SHUBB、G7thの中でもとりわけSHUBBは指板Rに敏感なようで、Fenderの指板R専用のC4というモデルを出している。逆に、世にこれ以外にはFenderの指板R専用のカポは存在しないということになる。様々な指板Rに対応した高級カポなるものもあるが、カポなんぞに大枚を叩きたくはないので考えないでおく。6弦エレキならSHUBBのC4を買えば済むが、今回必要なのは"12弦用の、Fenderの指板R専用のカポ"であり、条件を満たさない。ゴム部分の長さが50mmの6弦用C4でも、ナット幅が44.5mmの12弦ギターの2カポ程度ならギリ使えそうだが、7カポあるいは9カポでHotel Califolniaなんてもってのほかである。

 そもそも12弦ギター自体需要がないし、12弦用のカポも選択肢が少ない。ありがたいことに上述した御三家はいずれも12弦用のカポを出しているが、ピカイチと思われたG7thのものは指板Rが合わず今回は適さなかった。Kyserも6弦用のKG6の話であるが、Rの緩めなギター用と謳っているので12弦用も多分ダメだろう。SHUBBの12弦用C3もベースはFender用のC4ではなく汎用のC1なのでこれもダメ。結局、Fenderの12弦ギター用のカポはこの世に存在しないという悲しい結果になってしまった。

 現行も含めてFenderの12弦アコギを持ってるオタクなんて世界全体でも雀の涙ほどしかいないと思うけど、エレキの方のElectric XIIはそれなりに有名で持っている人も多少はいるはずである。彼らはカポを使いたい時はどうしているのだろう。どうりで調べてもElectric XIIにカポをしている情報が出てこないわけである。

 事態は完全に迷宮入りしているが、ここでかすかな光明が。Jim DunlopのTRIGGER CAPOというやつが何やら使えそうな感じがする。エレキ用、アコギのフラットな指板用、アコギのカーブした指板用、クラギの真っ平な指板用のラインナップがあり、アコギ用には12弦にも使用可と記載がある。クラギ用のみ他ブログでレビューがあり、ゴム部分の長さは約66mmもあるそう。見た感じエレキ用とアコギ用も同じ長さがありそうなので期待が持てる。これで指板Rさえ合えばドンピシャである。早速注文したがダメならG7th共々売りに出して最終手段、SHUBBの12弦用を無理やり曲げる手段に出るしか方法がない。TRIGGER CAPOの結果が出てからちゃんと記事にすれば良いものの、気が気じゃないのでバカブログを書いて到着待ちしている次第である。誰かがカポ業界に革命を起こしてくれることを祈るばかりである。